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千葉県八千代市 |
星襄一版画展示室 |
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1994年12月 |
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今回は、千葉県八千代市にある星襄一(ホシジョウイチ)版画展示室を紹介します。星襄一は、木版で樹木を精細に表現する作家として知られています。 京成本線の京成大和田(ケイセイオオワダ) 駅を降りて千葉銀行の前からバスに乗り市民会館前で降ります。この八千代市市民会館の3階に星襄一版画展示室があります。駅から10分ほどです。 この展示室は、1988年11月に開設されています。星襄一が、晩年の3年間を八千代市勝田台に住み、そこで「樹シリーズ」の版画の制作を行なったということで、1987年に星画伯の遺族から149点の作品と版木が八千代市に寄付されました。八千代市では、これらの作品を将来建設予定の美術館に収蔵し、展示する予定だそうですが、一日も早く公開してほしいという市民からの要望により、展示室という形で公開しています。 星讓一は、1913年新潟県に生まれています。台南師範を卒業して台南で13年間小学校の教師をしています。戦後の1946年台湾より引き揚げて郷里の新潟に帰り、ガリ版屋を始めます。北光社という看板をあげて、山奥の青年団の機関誌などを引き受けているうちに、自分でカットや挿し絵を入れたのが、評判になり、少しずつ注文が増えてきたそうです。その間、孔版画の技術を習得し、1948年には、日本版画協会の展示会に初入選しています。その後、家業を棄てて上京し、武蔵野美術学校で油絵を勉強し、1956年42歳で卒業します。卒業後は木版画を独学で学び、国画会で国画賞を受賞し、国画会の会員となります。木版画を始めたしばらくの間は、白と黒を主にした抽象が続きますが、そのあと人間への郷愁を感じさせる星と星座のモチ−フに移り、そして最後に自分の気持ちにぴったりくる「樹」のモチ−フを探しあてます。海外の展覧会にも出品し、サンパウロ、ニュ−ヨ−ク、イタリア、ベルギ−等で高い評価を得ています。東京国立近代美術館、千葉県立美術館をはじめニュ−ヨ−ク近代美術館、ボストン美術館、シカゴ美術館など海外の多くの美術館にも所蔵されています。 1972年8月、ハワイで行なわれた田中・ニクソン会談の下準備に来日中だったヘンリ−・キッシンジャ−米大統領補佐官は、自分自身で選んで持ち帰った版画の一つが星襄一の「赤い地平線」と題する木版画であり、また、そのハワイ会談にのぞむ田中首相がニクソン大統領への手土産の一つにしたのが「白い林」と題する星襄一の木版画であったということです。 最初のころは、厚い版木を買えなかったため、3ミリくらいの薄いシナベニアを使って必死に彫っています。遅れて志をたてたので必死でやらざるを得なかったとのことです。星襄一の「樹」木版画全作品集の序文で次のように述べています。
「 遅い遅い出発でしたが、夢中で手さぐりを続けていますうち に、いつしか20数年たちました。 はじめの数年間はいわゆる抽象様式を手がけておりましたが、 やがて、絵は誰にもまずわかって頂かねばならないという反省 から、徐々に抽象的表現から離れつつ自分の道を模索してきま した。 何を描くか(何を言いたいのか)−−何かあるのだがはっき りと姿を現わしては来ない、その漠としたものの周りをさまよ っていますうちに、題材はいつか一つの傾向をとって、ある時 期からしばらく星が続き、やがて地平線、そしていまの樹木へ のしごとへと移って参りました。星や地平線はひたすら遠いも のへの憧れや祈りでありましたし、さらに地上で同じ思いを託 せるものとして、又、一そう手応えのあるものとして、樹木が 登場したわけです。題材のこうした推移を通して、私は自分の 言いたいその何かがようやくわかった気がします。それは一口 に言えば、自然と人間への郷愁とでもいうことになりましょうか。 最近の題材である樹木について申すならば、1本の木でも木 立でも森でも、思い浮かべるだけで胸に響いてくるものがあっ て、その湧き上がる心象を樹と風景につくっていくということ になります。従って、特定の、あるいは具体的な樹を描くわけ ではなく、あくまでも私の樹に他なりません。 最近、草の作品を試みまして、さらにそれが果てしなく広が る光景に心が動いております。満天の星もかねてからの宿題で すし、やがては大天地にまで至りたいと念じております。」
1979年6月17日肺ガンのため亡くなっています。肺ガンで死期が切迫していることを知った直子夫人は、前々から懸案であった星襄一自選作品集の刊行を急ぎますが、その完成を待たずして亡くなってしまいます。10月に刊行された作品集は、マスコミの好意的な書評もあり年内に完売してしまったそうです。
(川村記念美術館) 京成佐倉駅からは、17世紀のレンブラントから現代アメリカ美術の作品までを展示した川村記念美術館に行くことができます。八千代市市民会館の前からバスで勝田台駅に出て、そこから京成本線で4つ目が京成佐倉駅です。駅を出て右側のみやげもの店「しぶや」前から美術館行き送迎無料バスが出ています。平日は1時間毎ですが、日曜・祝日は30分間隔です。途中JRの佐倉駅南口を経由して、12kmほど行ったところに川村記念美術館があります。 この美術館は、大日本インキ化学工業(株)の社長が三代に渡って集めてきた800点以上にのぼる美術品を公開するための施設で1990年5月2日に開館しています。 初代社長の川村喜十郎は、屏風などの日本画を、二代目社長は、ルノア−ルなどの印象派を中心とした絵画やカンディンスキ−などの20世紀美術の蒐集にも加わっています。三代目になってポロックからステラまでの現代美術の作品を蒐集しています。 池の横にたてられたサイロのような美術館は、川村喜十郎の中学時代の同級生である建築家の設計によるもので周囲の緑に調和した美しい建物です。10万坪に及ぶこの広大な緑豊かな敷地の中には、大日本インキ化学工業の総合研究所もあります。美術館の周りの散策路を歩けば季節の花々を楽しむこともできます。
美しく可憐な花も好きですが、星襄一の描くさまざまな樹は、世の風雪に耐えている強さと落ち着きを感じます。
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所在地:〒276-0044 千葉県八千代市萱田町728 八千代市市民会館3F Tel:0474-83-5111 |
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星襄一版画展示室 公式HP |
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